アクティブ運用で勝ち続ける唯一の投資会社「驚異の資産運用会社 キャピタル」
1931年に創業し、現在150兆円ものAUMを誇るキャピタルグループを分析した本書。長期で勝ち続けている世界唯一と言っても過言ではない運用企業の成功の秘密が詰まっている。
投資の世界には再現性の感じられないエピソードが多く、事実多くの運用機関は大きな経済危機が起きる度にマーケットからの退場を余儀なくされている。再現性のある投資を行うには?長期で良いパフォーマンスをコンスタントに出すには?といった投資に携わる者であれば必ず直面する悩みにヒントを得たく購入。
驚くべきことに、本書ではアクティブ運用を徹底的にこき下ろし、市場インデックスをベンチマークとしたパッシブ運用の信奉者であるバートン・マルキールが前書きを書いており、キャピタルについては賞賛の言葉を並べている。
以下気になった点を箇条書き
・キャピタルの成功要因
長い時間とお金をかけて熟成させてきた人事政策
複数のファンドマネージャーがポートフォリオを担当するというユニークな制度
一貫した運用哲学と投資手法
・複数マネージャー制度
一つのファンドをいくつかに分け、それを複数のファンドマネージャーが担当
一般的な運用機関では資産の増大とともに運用成績が悪化する、この問題を解決するために編み出された
個々のファンドが増額すればそれに応じて随時ファンドマネージャが追加されていく
・マネージャー間取引
あるマネージャが株を売ろうとする場合、同じファンドを担当する別のマネージャに売り注文が伝達され、そこで買い手がつけば売買は内部的に処理される
・当初20年間の収支はほぼトントン
創業者ラブラスは設立後20年間、長期的に質の高い組織を作るため、赤字を個人的に負担しつづけた
・キャピタルのやり方には人手がかかる
資産の実質成長率とファンドマネージャー数の伸びはともに約7%
・旗艦ファンドのアメリカン・ファンドを売るセールスマンに最大限の手数料を払うことにしていた
8.75%の販売手数料のうち8%はセールスマンに還元
・アメリカン・ファンドの解約率は業界平均の半分以下
投資家が運用成果に満足し、長期間買い増し続けてくれることを重視する
・キャピタルは早期にファンドのバックオフィス業務専門のアメリカン・ファンド・サービスという会社を立ち上げる
キャピタルではサービスを信頼獲得のための投資と見ている
顧客にとってどれほどサービスが大切かを理解しない運用機関には、何年かに一度必ず起こる成績悪化の時期にそのツケが回ることになる
・とはいえ出資者とのコミュニケーションは負担
キャピタルの試算では、出資者に運用報告に一回行くたびに、その準備等にかかるコストによって年率0.25%パフォーマンスが悪くなる
・セコイアキャピタルのルーツはキャピタルグループ
キャピタルでは顧客資金を使ったベンチャーキャピタルへの進出は認められなかった
セコイアという名前の別会社を通じて自己資金で投資することになった
なんとか100万ドルが集まり投資を開始するが初期は難航した
初めての試みに暗雲が立ち込めたが3号案件のアドバンスト・マイクロ・デバイスがホームラン案件となる
その後ドン・バレンタインが投資の責任者となりさらに事業を拡張する
最終的にキャピタルとセコイアは別々の道を行くことになるが、初期の出資者はキャピタルの紹介経由
・この2-30年の間にアメリカでは上場株式取引に占める機関投資家の割合は10%から90%まで上がった
そして上位50社の機関投資家がニューヨーク株式市場の売買の50%を占める
・キャピタルは現在、エマージングマーケット投資でダントツのトップ
その受託資産額は2位以下の10社分の合計を上回る
・キャピタルではリサーチ部門が中核的役割を担う
ファンドマネージャーの判断材料に活用するだけでなく、複数マネージャーシステムの中にアナリスト勘定を設けている
・徹底したハイパフォーマンス路線
小規模な運用機関がパフォーマンスを上げ、規模を拡大すると、徐々に顧客に解約されない程度のパフォーマンスを維持し、リソースを受託資産の新規獲得に集中させるようになる
つまり付加価値の薄い量だけで稼ぐアセットギャザリングになってしまう
キャピタルではこういった考えを断固否定
・キャピタルの重要な意思決定のうち、少なくとも8割はノーというものだ
ブームに乗って投機的な意思決定をしなかったことが長期で勝っている秘訣の一つ
・個別銘柄のDDを重視する
キャピタルの投資戦略は経済予想から始めるいわゆるトップダウン方式ではなく、まず個別銘柄に注目するボトムアップ方式
・キャピタルのポートフォリオの売買回転率は、業界平均の3分の1程度と低い
この低い回転率が長期投資と組み合わさると、アナリストには時間の余裕が生じるため詳細な分析が可能になる、またファンドマネージャも質の高い判断が可能となる
・いち早く新興国への投資に着目
キャピタルにとってエマージングマーケット(新興国市場)の低PERは魅力であり、とりわけ急成長の世界的企業を割安な価格で買えるのは大きなメリットだった
・未上場でありながら社員に自社株の購入を推奨
退職に合わせて社員が保有する株式をキャピタル自身が買い取ることで、社員がキャピタルゲインを得る仕組みを設計
何十年も勝ち続けている会社なので、成功の要因を絞ることは難しいし、キャピタル自体が時代に応じて打った一手が偶然も含めて当たったという側面もあるとは思うが、それにしても複数マネージャーのシステムを最初に取り入れたという判断は素晴らしいと感じた。運用総額が大きくなれば、基本的には一社当たりの投資金額が上がるため投資先が限定され、アップサイドが減少してしまう。しかし、複数のマネージャーに予算を振り分けることで、小回りの効く投資が可能となる。また、投資社数も多くなるので、リスクの分散が可能になる。
もちろん、情報が分散するのでマネジメントは難しく、特に出資者への報告の難易度は高まる。出資者からすると同じファンドなので、当然マネージャーは投資先について詳細を把握している前提でコミュニケーションを取ってくる。つまり他のマネージャーの投資先についても詳細な情報を把握していなければならない。しかし、キャピタルでは機能を分担させ、職能別の部隊を自前で用意することによってこれを回避した。
運用マネージャーのポストはファンドが大きくなればなるほど増えるため、若手社員のモチベーションも維持されやすい。そして運用部隊以外のアナリスト部隊やバックオフィス部隊にもインセンティブと責任を与える設計にすることが、質の高い人材を長期に渡って雇用し続けられる秘訣でもあったのではないだろうか。運用資産の増加率と従業員の増加率が一致していることからも、優秀な人材を長期で雇用することがキャピタルの成功を支えているということがわかる。
複数マネージャーのシステムもそうだが、外部環境に左右されない社内制度やスキームを整備することで真正面から資産運用会社が直面する課題に向き合っているという印象を受けた。
そしてやはりセコイアの創業秘話にはグッときた。当時40歳のドンバレンタインはキャピタルの後押しを得ながらも、たった100万ドルしかファンドレイズできなかった。それが今や世界最高のVC、夢がある。
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