ヴァージン・グループ成功の秘訣をリチャード・ブランソンが自ら語る「ライク・ア・ヴァージン」
航空会社や携帯キャリア、スポーツクラブなど様々な事業を多角的に展開するヴァージン・グループ代表のリチャード・ブランソンがヴァージンの哲学や歴史について語った作品。ヴァージン・グループは派手で皮肉っぽいマーケティングで一躍有名になったが、そういった取り組みに至った背景なども収録されている。
1970年の創業以来、様々な分野で、同時多発的に事業規模の急拡大を遂げている同社の成功の背景やリチャード・ブランソンの成功の背景を知りたいと思い購入。ヴァージンは、独立系レコード会社だった時代から突然航空会社を立ち上げたり、携帯電話事業に参入したり、アフリカでスポーツクラブの展開を開始したりと、戦略も外から見ている限りでは読み取りにくい。ヴァージンについて同じように感じている方がいれば本書を読めば、その辺りの疑問も解消されるだろう。
以下気になった点を箇条書き
・再チャンスを与える
ヴァージンレコードのメンバーの1人がレコードを盗み、中古レコード店に売りさばいていたことが発覚
だがメンバーを解雇せずもう一度チャンスを与えた、後にそのメンバーはヴァージンの稼ぎ頭となるアーティスト発掘し会社に大きく貢献した
・ブリティッシュエアラインズと同等の広告費は出せない、すべてをかけて馬鹿をやれ。世間に自分を売り込め。
人生最高のアドバイスは?と問われてブランソンはフレディーレイカー卿から言われたこの言葉だ、と回答
・ゲリラ広告の活用
ヴァージン・エアウェイズのマーケティングチームはその日のビックニュースに24時間以内に反応し気の利いた広告を打つというマーケティングをよくやった
・ヴァージンが下した最良の決断のいくつかは市場からの迅速な撤退
航空事業に参入するときには、航空機をリースするボーイングとの契約に、12ヶ月後に事業がうまくいっていなければ飛行機を返還できる権利を盛り込んだ
・社員の帰属意識を高める
従業員が「会社が」という言葉を連発するようならその会社は問題を抱えている。従業員に会社への帰属意識がなく、「我々」という表現を使わない場合、それは組織の上層部と現場の意思疎通が図られていないサインだ。
・ブランドはある製品やサービスに何を期待できるかを伝える手段
鍵となるのはvirgin experience、ありとあらゆる分野で顧客の期待に沿うエクスペリエンスを提供し続けることで、ヴァージンと名がついていれば品質は安心できる、と思ってもらう
何より大切なのはヴァージンというブランド
・ブランドイメージを思い通りにコントロールする唯一の方法
約束は控えめにして、実際にはそれ以上のサービスを提供する
広告ではすべてが最上級と言っておきながら、それ以下のサービスや製品を提供する事業があまりにも多い
できることだけを約束する
・ブランソンはヴァージン諸島のネッカー島に長期滞在することが多い
そこで業界全体を俯瞰し会社が将来向かうべき方向性を熟考している
他の経営者には会社がある程度の規模になってきたら自分のオフィスを本社からなくしてしまうことを勧めている、もしそれが不可能なのであれば雑務こなすことに忙殺されている可能性が高い
・ブランソンも創業メンバーの一人とは袂を分かっている
借金をしてメンバーの持分を買取り、いくつかの事業は譲渡した
すべての手続きが終わった後に、新たに買収したナイトクラブで盛大に離婚パーティーを開いた
・ヴァージンの成長戦略は過去「垂直分解」と揶揄された
新規事業はコアビジネスと無関係なものが多かった
普通の企業においてはそんな事業は突拍子も無いと一蹴されるような事業ばかり
しかし無関係の分野に参入し続けることで、新鮮で独自性の高い会社であり続けることができた
2000年から2003年までの間にヴァージンは3つも10億ドル企業を作った
ビジネススクールでは本業に特化せよというのが常識だ
ブランソンはこの戦略をABCD(Always be connecting dots)戦略と呼ぶ
一見関係ない事業が後に大きなシナジーを産む
・ブランソンが投資をするなら不況期だけ
好況期と比べて大抵の物が5割から9割安くなるからだ
・ヴァージンでは創業した600あまりの会社のうち相当数を閉鎖もしくは売却してきた
事業を立ち上げて成功したら持ち分を売却し、また新たな事業を立ち上げるための資金にする
・優れたカスタマーサービスはコストではなくマーケティングへの投資
カスタマーサービスは良い口コミを生み出すのに欠かせない要素であり口コミが最高の広告である
口コミは信憑性が高い上に無料だ
また、良いカスタマーサービスが顧客のリテンションを生み出す
既存の得意客を引き止めるほうが新しい顧客を開拓するよりずっと合理的
・過剰なサービスを行った社員にMVPを与えた
ヴァージン・アメリカでフライトの出発が遅れた時に、機内のドリンクワゴンを持ち出してゲートの顧客に配ったスタッフがいた
ブランソンはこの話を聞き、全社総会でこの社員にMVPを与えた
この社員にMVPを与えることで、他の従業員の行動基準もおそらく変わるはず、評価制度が社内の文化を作る
こういった象徴的な出来事を拾って表彰する辺りも徹底している
さすがブランソンといったところで、ヒントになる示唆に富んだ話が非常に多く収録されていた。特にプロモーションやカスタマーサポートの具体的な事例はスタートアップでもすぐに実践できる内容だった。
ヴァージンがここまで成長してきた理由については、単一の要因だけでは語りきれないが、その戦略の根幹は、
カスタマーサポートを厚くすることによって良い口コミを広げ、CPAを下げること
エクスペリエンスを向上させることでリテンションを高めること
にあるのでは、と思った。ここでいうカスタマーサポートは電話口のオペレーターだけでなく、顧客をサポートする行為すべてを指している。
実はヴァージンは、過去飲料や化粧品、衣料などの製造小売業にも参入したが後に競合に勝ち切れず撤退している。これはつまり、逆説的にカスタマーサポートによるエクスペリエンスの向上がうまく作用しない業界ではヴァージンのやり方は通用しないことを示しているのではないだろうか。
ヴァージンの手法は、サービス業における一つの完成された解なのかもしれない。
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